2024/03/11

【アカデミー賞受賞記念】再録・山崎貴監督インタビュー

 本日『ゴジラ -1.0』で米国アカデミー賞・視覚効果賞を受賞され名実ともに世界的監督となった山崎貴監督に、かつてネオ・ユートピアはインタビューをしたことがありました。
 そこで今回アカデミー賞受賞を記念して、山崎貴監督のインタビューを特別再録します。
 このインタビューは同監督による映画『STAND BY MEドラえもん』が公開されるはるか以前、映画監督デビュー作『ジュブナイル』を公開したばかりのまだ若かりし頃の監督の貴重なインタビューとなります。かつて山崎貴監督が映画化したいと語った藤子作品とは、果たして…?
(初出・NeoUtopia31号  2000年12月発行)

※以下記事の内容はすべて2000年当時のものです。


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 98年の春頃から、『ドラえもん』の最終回の噂が、インターネットを中心に飛び交ったのを覚えていますか?「故障したドラえもんを、科学者に成長したのび太が修理する」というその話は、もちろん藤子F先生が遺されたエピソードではなく、一ファンが、自ら創作したパロディの最終回をホームページ上で発表したものでした。しかしチェーンメールや口コミによって本物として噂が広がってしまい、マスコミにも取り上げられ、ちょっとした社会現象に……。
 時は過ぎ、 2000 年夏。全国の東宝系劇場でSFX映画『ジュブナイル』が公開され、好評を博しました。実はこの映画、当時一介の特撮マンであった山崎貴氏が、最終回の噂に感動してシナリオを起こし、映画にしてしまった作品なのです!そしてEDスタッフロールには、「For Fujiko・F・Fujio」の文字が…。
 今回はそんなウソのようなホントの話を、『ジュブナイル』で見事監督デビューを果たした山崎貴氏に伺ってきました。映画の裏話も併せてお楽しみ下さい。 

NU INTERVIEW
映画 《ジュブナイル》 と 『ドラえもん』


山崎 貴監督 TAKASHI YAMAZAKI

プロフィール:1964 年長野県松本市生まれ。『スター・ウォーズ』を見て、特撮マンを志す。阿佐ヶ谷美術学校卒業後、 CG プロダクション白組に入社。『大病人』『マルサの女 2 』(伊丹十三監督)『スウィート・ホーム』(黒沢清監督)『エコエコアザラク 1 ・ 2 』(佐藤嗣麻子監督)に SFX スーパーバイザーとして参加。本作が監督デビュー作。現在、次回作を準備中。 

 

ネオユー、カントクニ、アッタ!

 
― 早速ですが、最終回エピソードの映画化と、藤子先生に捧ぐというクレジットが入った経緯について教えていただけますか?

 『ジュブナイル』は一番最初に、『ドラえもん』の最終回の話を、人から聞いたことがきっかけなんです。そこから話を転がし始めているので、影響を受けてるんじゃなくて、原作と言ってもいいんです。インスパイアド・フロムみたいな感じなんです。あの話を聞いて、それは映画にできると思って作者の方に連絡をとって。
 
 だから、最初はシナリオにもインターネットの最終回が原作ですと書いてあったんですが、他人のキャラクターであるドラえもんを使った作品を原作にしたと明示しちゃうといろいろ著作権的に問題があるらしくて。作者の方も『ドラえもん』があっての話だから、あんまり原案みたいな形で出してもらうのもちょっと違うと言ってくださって。 

 結局インターネットのドラえもん最終回が原作ですというのは出せなくて、スペシャルサンクスに作者の方の名前を入れさせてもらいました。
 もちろんその話も『ドラえもん』あってのことなので、プロデューサーと相談して「藤子先生に捧ぐ」と入れさせてくださいと藤子プロにお願いしたら、それは是非と言ってくださったので、あのクレジットを入れることができたという次第です。

 最初はインターネットで見たんじゃなくて友達から聞いたんです。外へご飯を食べに行った時、満員で入れなかったんですよ。いま思うと満員で良かったと思うんですけど。待ってる時に、「いい話きいちゃったんだよ」って、あの話を聞かせてもらって、とても感動したんです。

 そのときは、いても立ってもいられなくなって、これはヘタすると本家で使うんじゃないかって。いま考えるとありえないんですけど。そうじゃなくても、そんなに広まっていたら、目利きのいいやつが映画にしちゃうんじゃないかって心配になって。その日はすぐ帰って、インターネットであちこちのドラえもん系 BBS で「ドラえもんの最終回って知りませんか」って聞いたんですが、「子供の夢を壊すのがそんなに嬉しいのか」って結構罵声を浴びて(笑)。でもなんとか教えてくれる人がいて、ホームページに辿りつくことができました。 

 それをもとに趣味で脚本を書いたのが 98 年の夏です。で、こりゃいいぞってすっかり満足して、誰に見せることなくコンピューターに入れておいたんです。作者の方ともコンタクトは冬までしなかったのかな。

 もともとは『鵺』という別の超大作の企画をやっていたんですけど、ちょうどそれが停滞しちゃったんです。企画を続けると、特にずっとやっている CG のチームが新しい技術を開発しても発表できないんですよ。人に見せるものを作りたいという気持ちが彼らにどんどん高まってきちゃって、かといって CM をやるとか、この企画を放り投げるというわけにも行かなくて、ストレスが溜まっている状態だったんです。そんなときインターネットの最終回の話を思い出して、あれなら低予算でできると。

― あの映画は低予算なんですか?

 いいえ、最初は 1 億 5 千万くらいで作るつもりだったんですよ。 SFX の入る映画としてはまあまあの値段で。日常が舞台であれば、そんなすごいセットを作らなくてもいいし。また戦略としては日本は子供市場が強いので、狙えると。そして何より自分の好きな話であると。これはすごい大事だと思うんですけど、商業ベースと自分の好きなことがすごい折り合いがつく企画になりそうだったんですよ。 

 で、息抜きにこれ安くできるから、やりませんかって提案したんです。そしたら、みんなもちょうどそう思ってたんでしょうね。製作会社の人たちも、『鵺』はちっとも進まないし、金ばっかりかかってと思っていたらしくて、こりゃいいやって、わりとやる気になってくれたんですよ。

 それで『踊る大捜査線』のプロデューサーに見せたら、ヒートアップしてですね、こういうのは金かけなきゃだめだって言ってくださって、それで『鵺』に出資しようかと言っていたスポンサーに見せてくれたんですよ。あと下北の町をガンゲリオンが飛ぶテスト映像をもっていったら、瞬く間にお金が集まって。これはすごかったですよ。本当に瞬時に、 1 ヶ月かからないでもうスキームが組まれていましたね。このクラスの作品ではすごい早さらしいです。

 これで 99年の 1 月ですね。で、実際に作ることが決まって、インターネットの最終回の作者の方にプロデューサーからコンタクトしてもらったんです。

最初は警戒されました 

― 自分で考えてネットに載せた話が映画化されるなんて、すごいですね。

 作者の方もそうとう面白がってくれましたね。感動してくれました。自分の話がコアになって映画になる。思いもしなかったでしょうね、まあ、そうですよね。

 彼自身は物語とは無縁の人で、太陽電池の研究をされていて、逆にそこから耳が予備電池という話を思いついたそうです。 

 最初はだいぶビビッていたみたいです。思いがけずチェーンメールとかになってしまって、「勝手に最終回とか書くな」って攻撃を受けたりしていたみたいで、非常にナーバスになられていて。そこにまたわけのわからないのがやってきて、映画にしたいなんて(笑)、一体どうなっちゃうんだって(笑)。

 あと法律的な問題とかも気にされていて、映画化することで、何か問題が生じるんじゃないかって。ちょうどそのとき偶然別方面から、小学館もスポンサーになるって決まったんで、安心してくださったという感じです。

香取くんってあの香取慎吾さん? 

 そのあと香取慎吾くんが登場するんです。すこし大作になってきたんで(笑)、看板スターが必要だからと、香取くんはどうかな?っていわれて(笑)。

 香取くんってあの香取くんですかって。監督することは決まっていたんですけど、そのときは私はまだただの特撮マンで。香取くんてあのテレビで見る香取くん?って感じで。ぜんぜん OK なんですけど本当にありなんですかって(笑)。やるって言ってるんだよって言われて(笑)。

 それでまた、いろいろなスキームが動いて、最初は春に上映する予定だったんですけど、そこまでいったら、夏休みにやろうということになって、えらいことになったというのがその頃ですね。

― 配役はぴったりでしたね。

 そうですね。香取くんも子供らの演技を引き締めてくれたし。インテリの香取くんって見てみたかったんですよ。多分似合うんじゃないかと思って。香取くんのパブリックイメージって、やんちゃな元気のいい兄ちゃんていう感じなんで、そういうのを押さえると意外と良かったりするんですよ。当然そういうものが内側から出て来ちゃうんで、それを隠してやったり汚してやったりすると、結構いいものがでてきたりするんです。

― 山下達郎さんが主題歌というのもすごいですね。

 書き下ろしですからね。主題歌を誰にするかで揉めてたら、山下さんとかどう?って言われて。昔から好きだったんで、幸せでした。

 ご本人も試写の後、劇場へも足を運んだそうなので、気に入ってくれてるんではないか!と思います(笑)。 

 もともと『夏への扉』とか書いているじゃないですか。結構 SF のジュブナイル小説とか好きみたいですしね。こういうのをやりたかったみたいですね。

― 企画がぽんぽんと進んでいったのも、みんながこういうのをやりたかったっていうことなんでしょうね。

 日本映画はホラー映画とかあまりにもそっちへ行き過ぎちゃっていて、アンチテーゼとして、こういうのをすごくやりたいという気持ちがあったみたいですね。プロデューサーチームもみんなのりのりでしたよ。ちょうど待ってたんだよという感じで。あんまり後ろ指さされる感じの映画じゃないじゃないですか。正面切ってどうどうとやりましたっていう感じの映画なんで、すごいみんな楽しかったです。

身の回り 100 メートル以内の大冒険・ Juvenile

 
― 映画は、ワクワクしたムードが漂っていて、とても良かったです。

 ありがとうございます(笑)。まあ、自分らも好きで作ってたんで。昔のジュブナイル小説の感じっていうのを意識していて。

 子供の頃、児童館に世界ジュブナイルシリーズみたいのが 50 冊くらいあったんですよ。田舎の町で最終学年の授業が終わるまでバスが出なくて、その間読んで DNA にそのあたりのものを刷り込まれましたね。

― タイトルは最初の企画の時点で「ジュブナイル」だったんですか?

 仮題だったんですけどね。ほかに浮かばなくて、そのままになってしまいました(笑)。
ジュブナイルっていう言葉は諸刃の剣で、意味がわかったり覚えたりするといい言葉なんですよね、ちょっとおしゃれだし。

 ただ、なかなか覚えづらい面もあって、ナイル川の映画なの?とか、エジプトの方の映画なの?とか言われました(笑)。

 後でわかったんですが、アメリカではあまりいい言葉ではなくて、少年法とか青少年犯罪とか、ジュブナイルマーダー(殺人)とかそういうときによく使われる堅苦しい言葉、日本で言うと「青少年」とか、法律用語とかに使われる単語らしいです。
 
― 映画の中では、神崎さんが研究を説明するシーンが面白かったです。

 金魚を凍らせるところですね。科学少年にはたまらないかもしれませんね。あれはアメリカ映画とかから学んだことなんですが、物事を口で説明すると何パーセントしか伝わらないんです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だと、ミニチュアを作ってみたんだってドクが見せて、ここを車が通ったんだっていう話をするじゃないですか。『ジュラシックパーク』でも、ライドのシステムを利用して、どうやって恐竜を作るのかを説明してましたよね。だんだん三次元になっていけばいくほど、人って理解しやすいんです。だからあれは子供たちに説明してるわけではなくて観客に説明してるわけです。 

 藤子先生のドラえもんでも、ちゃんとこれこれこうなってという図解がでてきて、体験の中でわからせていくようになってますよね。 SF だと、僕らは知っていると思っていることでも、結構みんなは知らないわけですよ。そういうことを伝えるときに、できるだけエンターテイメントにして解説しなきゃいけないというのがあって、そういう意味ではあれはうまく行ったみたいですね。わりとわかりやすい科学 SF というのは、必ずああいうシーンがあると思うんですよね。すごい大事なことだと思います。どうやってできるのかっていう肝心なことは説明しないんですけどね(笑)。

― 敵のボイド人とのやりとりなんかも、ほとんど地に足がついているような、日常からあまりはみだしていない所に藤子作品的なテイストを感じました。

 どっちかというとのん気な戦いですよね。間抜けな戦い、のんきな戦いを描きたかったんですよ。

 ドラえもんを尊敬しているのは日常感覚に密着してるところです。あんなに SF している作品なのに、日常レベルで、のび太の非常に些末な悩みから話が発展していっていて、非常によくできているなと思います。子供たちってそうじゃないと体感できないんですよね。

 そういう意味では身の回り 100 メートル以内の大冒険って言っていたんですよ。いきなり宇宙にいくのではなくて、日常の少し遠くから、だんだん遠くにしていかないと、共感を得られないと思うんですよね。それはすごい参考になったですね。

― 高野田くんのシーンは一番笑いました。小池さん的なキャラで(笑)。スピーディーな中のちょっとしたツッコミがよかったです。

 高野田くんおいしいですよね。彼は一晩しか撮影に来てないんですよ(笑)。
 試写会でも受けてました。大人向けの試写会ではあんまり笑ってもらえなかったんですが、子供向けの試写で、子供が笑うと大人も笑うんです。自分の中ではかなりコメディな映画なんですけど、日本映画で S F ものということで大人の方々は笑っちゃ失礼と思ったらしいんですね。クスクス程度しか笑ってくれなくて。でも、その後の試写でみんなドカドカ笑ってくれて。間違ってなかったんだってほっとしました(笑)。

― 欧米では一般公開するんですか?

 動いてるみたいなんですけど、あんまりよく知りません(笑)。リメイクっていう話もちょっとあるみたいです。アメリカの子供たちで。でもそんなものはちらっと出て、消えていくというものなんですが(笑)。興味を示している人はいるみたいです。 
 イタリアのガキどもの反応はすごかったですよ(編注・『ジュブナイル』はイタリアのジフォーニ映画祭で上映され、子供映画部門グランプリを受賞しました)。あいつらはラブシーンになると、ものすごい盛り上がるんです(笑)。岬が振り返ったりすると、ピューって(笑)。もう大歓声。やっぱラテンだよなあって。ガンゲリオンの活躍シーンも、ものすごい大熱狂になるし。ウワーッて拍手してくれて。そしたら、先生に懐中電灯で頭を叩かれながら座るんですよ。やってる最中は日本語なんてほとんど聞こえない状態で、どうなるんだろうって思ってたんですけど、すごい受けてましたね。希有な体験をしました。

― 国内外問わず、作品的には大成功だったんですね。

 作品としては大成功です。反響もめちゃめちゃいいし、自分の中ではバッチリ OK なんですが、興業はまあまあですね。大成功でもなく、大失敗でもなく。
 ムーブオーバーがあるということはまあ良しということなんですけど。ちょっとまだビデオとかでフォローしないとやばいかなという感じです。

手塚先生への憧れ


― ちなみに子供のころ、好きだった藤子作品とかありますか?


 子供の頃は、『エスパー魔美』『パーマン』、特に『怪物くん』が好きでした。小さい頃一家で海に行ってアニメの『怪物くん』の最終回が見れなくて、海に行ったことを忘れて泣いて騒いだ覚えがあります。また、オバ Q のマクラも持っていましたし。ことさらマニアという感じではなかったんですが、生活に密着した感じでした。 

 大人になってからはやっぱり短編集ですね。すごいレベルが高いというか、あの短さの中によくこれだけ入れたなと思います。 特に最後に、話のどんでん返しじゃなくて心理的などんでん返しがあるやつがあるじゃないですか。「宇宙船製造法」とか。 
 あと好きな女の子のクローンを作る「恋人製造法」とかが印象に残っています。つい最近読み直して、あの 2 本が特にすごいなと思いました。

 あと漫画という意味で純粋に好きだったのは、手塚さんです。『火の鳥』とか。ブラックジャック世代なんで、そこから遡って読んでいきました。 

 『まんが道』を読んでいると、もの凄い手塚先生を崇拝しているじゃないですか。子供のときそれを読んで思ったのが、わかるわかる(笑)。藤子先生の行動パターンとか、同時代にいたら、そうだろうなあって。トキワ荘のあのころの話っていうのは好きですね。いろんな意味で。生原稿を落とすところもすごい好きですし、わかるわかるって(笑)。あの頃のトキワ荘って楽しかったでしょうね。やっぱり天才級の人たちが揃っていたわけで。同好の士が集まってというのは映画にはなかったですからね。羨ましかったです。

影響を受けた監督

 
― では、影響を受けた映像監督などは?

 岩井俊二監督の『打ち上げ花火』とか、スピルバーグ一派の娯楽大作です。ああいうものすべての影響を受けていると思います。観客に向かって作っているという点で。

― 伊丹十三監督(『マルサの女』ほか)の作品にも参加されたんですね。

 受けの CG ですね。季節を変えたり、夢の中だったり。予算のある映画作りのノウハウを勉強できましたね。現場での振る舞い方とか、どうすればきちんと話をきいてもらえるのかとか。現場は伊丹さんのカリスマ的権威でまとまっていたから、自分の参考にはあまりなりませんでしたが、憧れの現場でしたね。あそこで学んだことは、好きなことを言わせる人になれば、いいんだと。つっこみの隙をいっぱい作って自然につっこまれる人間になってしまうんですけど、言われることを恐れてはいけないと思いましたね。あまり独善になりすぎちゃうと、どうしても偏ったものになっちゃうし、特に商業作品ですから、いろんな人の意見を聞けるようにならないと。酷いことを言われても、一回は考える。それで、それでも許せるものと許せないものがあるじゃないですか、そういうところで個性が出ればいいかなと。 

 『ジュブナイル』の撮影の現場は、みんな紳士で楽しかったんですが、プロダクションは皆知っている仲じゃないですか。遠慮がなくて、 DVD を見ていただくとわかると思うんですが、つらい仕事です(笑)。

 オレが神だ、みたいな監督もいますけど、そういうスタイルもありだと思います。やっぱり戦場なんで、もの凄い権力者がいて、皆がそれに従ってという、そういうパワーがあって恥じないものが作れるんだったら、それもありだと思います。その方が進行も早いですしね。人の話を聞いていると時間かかりますからね。
 何年かしたら、山崎も昔はいい人だったのにねって言われるかもしれませんが(笑)。

生きるか死ぬかの状況

 
― 最近の特撮とかはご覧になってますか?

 一応チェックしていますが、昔は知恵と工夫があったけど、最近は何でもできるようになってそんなに感銘を受けることがなくなってきましたね。特撮は好きだし、自分のバックグラウンドなんですが、それだけでは観客の心は動かせない、それだけに安住していたら、とんでもないことになると思います。 

 試写で見たんですが、『バトル・ロワイヤル』がすごいお勧めです。今の世相にあっているというか、生きるということ、死ぬということを新しいステージを作って真剣に取り上げているんです。こういう映画こそ中学生とかに見て欲しい映画です。急に戦場に放り込まれる体験というのは、知っておくべきじゃないですか。映画での仮想体験としてでも。そういう意味でもいい映画ですね。日常感覚から切り離せない状況の中で殺し合ってかなきゃならないんですよ。だから、すごい追いつめられるんだけど、一番大事なことは好きな女の子のことだったりするんです。好きな女の子を守るために行ったら、その子に殺されちゃうとか。こういう痛いところが随所にあります。で、お互い殺し合えって言っているのに、傷ついてると助けちゃったりとか。なんで、助けたのかわかる?とか言われて。そういうのが修学旅行ぽくていいんですよ。一生懸命知恵を絞って絶対脱出不可能なはずのところをなんとかがんばって脱出するとか。クライマックスばかりなんですよ。
だから、今『漂流教室』をやってみたいんです。生きるか死ぬかの状況に放り込まれるというのが、すごい興味あるんですよ。

― SF 短編の中で映画化してみたい藤子作品はありますか?

 お金があるんだったら、さっき言った『宇宙船製造法』ですね。話の骨組は漂流教室に近いんですよ。いい映画になると思います。生きる死ぬの状態に放り込まれたときにどうなるかというのにすごい興味があって、やってみたいです。だから、もっとヘビーなものになると思います。宇宙船のデザインはリニューアルして。  

 予算がないんだったら、恋人のクローンを作る『恋人製造法』ですね。あれはオチがすごい良かったです。親にばれないように、こっそりクローンの世話をしてやるところとか。 
SF 短編は本当に素晴らしいストーリーの宝庫ですね。

 他にはパーマンやってみたいです。いいアイデアがあるんですよ。一時は結構真剣に考えました。パーマンはバットマンみたいなかっこいい奴で、でも駄目少年で。
ボイドスーツ(ボイド人が人間に変身するためのスーツ)は、パーマン用に考えたコピーロボットのアイデアを転用したんです。ボタンを押すと、バシッてボタンを押した相手の映像を撮って、ヒュルヒュル、シュパッて変形して、その相手の形になるっていう。

 ブービーのアイデアもすごいですよ。巨大なサルになりますからね。人間は、マスクをかぶると、力が強くなるだけですが、サルはかぶると孫悟空的にメチャメチャ強いサルになるんです。ピンチのときに、ブービーっ!て呼ぶと、ぐわーって巨大になってオリを曲げて飛んでくるんです(笑)。 

 藤子先生自体もなんかドラえもんもそろそろ実写化できるんじゃないかって言っていたみたいですね。タケコプターの視点というのは、きっと面白いと思うんですよ。 

 藤子先生、映画が好きじゃないですか。前にスターログで西遊記を映画化したいって書いてましたよね。あの中で言われたアイデアで、サルみたいに見える人やブタみたいに見える人、役者としてそういうスタイルをもった人を使いたいというのが面白かったですね。あれ、てっきりやると思っていました。

― 『ドラえもん』の連載初期に描かれた本当の最終回をお読みになったことはありますか?

 一番好きなのはジャイアンとけんかする奴。あれには本当にやられました。ジャイアンが負けたよって逃げていくところとか。話は聞いてたんですけど、あれはもう読んだ瞬間泣きました。

 帰って行く場面もいいですね。セリフなしで、ドラえもんが見守っている絵があって、次のコマではいなくなっている。あれがもうたまらない。これはもう映画ではできない。漫画表現に対して羨ましいと思ったことはほとんどないんですが、羨ましいと思った希有な例です。オーバーラップでもなんでもなくて、同じ絵でいる、いない。このストイックな表現、終わり方、去り方。素晴らしいです。 2 度と会えない感じは、あの構成が一番いいんですよね。だって引き出しに帰っていくというのは今まで何度も繰り返されたことだから、当然また帰ってくることを想起させるじゃないですか。でも、そうじゃなくて、あれはもう 2 度と来ないわけですから、ああでなくてはならない。 

 そして本当の最終回は『ドラえもん』じゃなきゃできないじゃないですか。『ジュブナイル』の元にした話は、まだ『ドラえもん』から距離がある。仲が良かったとか、思い出が大事だったという部分で、違うキャラクターでも成立するんだけど、本当の最終回はのび太の日々の行動とかが全部ないと、思いとして伝わってこないんですよね。だから、かっぱらうことはできない(笑)。

 のび太が本当に感情表現するときは心に来ますよね。普段ご都合主義でゼロレベルから動かないじゃないですか。なんでもドラえもんにやってもらっちゃうし。だから、そいつがちょっと前向きなことをしただけで、心を動かされますよね。というのが、『ジュブナイル』にはなかったというか足りなかったので、それが反省点です。

― そういえば監督が書かれた小説版では、甘酸っぱさに苦さもプラスされていて、良かったです。

 小説は映画の反省が入っているんですよ。映画は、祐介がもっとのび太のような駄目少年であるべきだったんですよ。弱さ、駄目さをもっと自覚させなきゃいけなかったんです。意外と映画の祐介ってスイスイ何でもやるので、あの「オレが行く!」って言ったときの気持ちの切り替えがあまり効いてなかったなっていうのがあって、小説は徹底的に祐介を駄目野郎にしてやろうと思いました。

 今、 2 作目のシナリオを書いているんですけど、『ジュブナイル』の時は、あの最終回が太い骨だったんです。どう振れても、困ったときにはとにかくあそこに戻ればいいっていう灯台だったんです。いま、そういう意味ではフリーなんで、ここをふくらませるともっとこんな風にもできるって全体に影響を与えちゃって、どうしても揺れちゃうんですよ。そう思うとあのストーリーは、すごい立派だったなあと思いますね。

― 小説で書かれていたような『ジュブナイル 2 』の企画はあるのでしょうか?

 DVD に笑えるものが入っています。これから映る映像は精神に重大な障害を与える場合がありますので見ないことをお勧めしますという画面があって、それをさらに進めると、短いちょっとしたものが入っています(笑)。

 ただ『ジュブナイル 2 』の小説は書きたいですね。頭の中ではできてるんですよ。
第 1 作のあと、ボイド人が宇宙を飛んでいたら、本当に悪い凶悪な奴らがやってきて、ボイド人が大方滅ぼされてしまうんですよ。で、あいつらなら、何とかなるかもしれないって、祐介たちのピッチに電話をかけてくるんです(笑)。海の中で 2 隻船が爆発したけど、奥の船はどうなっているか、よくわからないんですよ。あれ実はあまり破損していなくて、コクーンみたいに繭になって救助を待っているんです。それを復活させて、ボイド人と三バカチーム+岬の連合軍対極悪宇宙人の戦いが始まるという話を是非書いてみたいですね。ボイド人と祐介たちが友情を育むというのもすごく面白くなると思うんですよ。

― 『鵺』の企画はどうなったんですか?

 30 億円くらいかかるので、一生、いつか作るって言っているかもしれません(笑)。
自分はまだ監督としての経験値も少ないし、絶対というものがあるわけではないので、できるだけ人の意見を聞いて、沢山いいものを作って行こうと思います。

― 本日は貴重なお話をありがとうございました。
2000.11.3
下北沢にて


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はみだしインタビュー

―ヒロインの鈴木杏ちゃんについて、何か面白いエピソードはありますか。

 彼女はお父さんともども『スター・ウォーズ』が好きで、『ジュブナイル』の話が来たときも、相当嬉しかったらしいです。でも逆に特撮に厳しい(笑)。アフレコで途中のできかけの映像が入ることがあるんですが、もう完成している映像を見て、「あれは最終的にどうなるんですか?」って聞かれて、「完成だよ」って言ったら、「えーウソでしょー」って。それで、おい、鈴木杏に舐められてるぞって、泣く泣く直したりしました(笑)。
あと D V D 用にコメントを撮ったのですが、彼女がしゃべろうとすると、ぼくがしゃしゃり出てくるらしくてスタッフに途中で怒られました。
 とても頭のいい子ですね。演技もうまいんですが、シナリオや演出などの裏方の才能もあるので、たとえ女優をやめてもそっち方面に進めると思います。

―DVD も出るんですよね。

 12 月 22 日に出ます。特典映像がすごいです。メイキングも 10 本入ってますし、怪盗ヤミーとか宇宙人と戦うやつとか劇中劇も入ってます。怪盗ヤミーはワイヤー消しまでしています。宇宙人と戦うやつは、会社の屋上で 5 分で撮ったバカ映画です。できるだけ演技のできない外人を 2 人連れてきて(笑)、よく深夜でほんとに演技のできない奴が出てるやつようなのがやりたくて、みんなで駄目な感じでいいなあって喜んでたら、本人たちは自分の演技が良かったと思ったらしくて、かわいそうなことをしました(笑)。
 あと、日本語字幕がすごいんです。日本語字幕って耳の聞こえない子のためのものなんです。漫画の字とドーンって体に来るサブウーファーの音が彼らの知る唯一の効果音らしいんですよ。その話を聞いて、日本語字幕が漫画の効果音みたいになったらいいのにね、そういう風にできるようになったら、私が手で描いちゃいますよって言ったら、技術者ができますよって(笑)。パースがついたドカーンとかドヒューンとか 110 個ぐらい描かされました(笑)。結構変わった不思議なものでした。ガンゲリオンがガシャンて動くとき、「ガシャン」て字幕が出て。漫画字幕、たぶん世界初だと思います(笑)。

―小説版は、あるシークエンス、ごそっと追加されたところがありますね。ここ良かったです。

 あれは、書かされたんです。後半ある役で吉岡秀隆(山田洋次監督『男はつらいよ』ほか)くんが出てくるのですが、彼はどういう訳で今この場所にいるのか知りたいって言われて。吉岡くんはすごく勉強家でそういうのを大事にする人なんです。今彼というのはどういう気持ちで今ここにいるのか知りたいと言われて。それで、そのとき吉岡さん用に空白のシークエンスを書いたんですよ。そのあと小説を書くことになって、書いておいてよかったなと。ですから、よく見ると文体が少し違うと思います。
 
映画『ジュブナイル』
2000 年夏・全国東宝系公開
出演/香取慎吾 酒井美紀 鈴木杏 遠藤雄弥 清水京太郎  YUKI  緒川たまき 吉岡秀隆
監督・脚本・ SFX /山崎貴

STORY
キャンプに遊びに来ていた小学生祐介、秀隆、俊也、岬たちは夜、林の中で不思議な物体を発見する。それは地球のある資源を狙う宇宙人ボイド人の野望を阻止するため、未来からやってきたロボットのテトラだった。近所の天才発明家神崎さん、岬のいとこ範子さんを巻き込み大バトルが始まる。果たして祐介たちに勝ち目は? そんなとき、テトラはボイド人に対抗するため、密かに秘密兵器ガンゲリオンを作っていた!
CHARACTOR
・テトラ( Tetra ): マスコット的な存在の超高性能小型ロボット。映画の重要なカギとなる。
山崎 「テトラはスクリーンタイムが短かくて、ドラえもんみたいに長い時間をかけて感情移入させられないので、最初からかわいいキャラという風に決めました。デザインのイメージは小学生です。リコーダーをランドセルに差して半ズボンをはいてるっていう」 
ガンゲリオン( Gungelion ): テトラが開発したパワードスーツ。プレイステーション 2 のコントローラで操縦する。 
ボイド人( Byoid ): クジラ座タウ星第 4 惑星から地球のある資源を奪うためにやってきた。出会った人間そっくりに変身できる。